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幼少のかわいいぼくが、動物園に連れて行ってもらったときのこと。
道で摘んだタンポポを片手に、楽しく園内を見て回っていると、
「ふれあい広場」みたいな感じで、ウサギとかの、あんまり危なくない動物たちを
実際に抱っこしたりエサをあげたりできるスペースがあったわけですよ。
ぼくはそこへ行って、大事なきれいなタンポポを、動物のみんなにも見てもらおうと
かわいい思考のぼくです。

で、まずはどの動物のところへ行こうかなあとか思っているうちに、
柵の隙間からニュッと顔を伸ばして、ぼくの大事なタンポポを食べたあひるがいたのですよ。
突然の出来事に、大泣きしました。

泣きやまないぼくに、母がべつのタンポポを摘んで来てくれたのですが
タンポポを失くしたことは、別にどうだってよかったのです。
元々、あひるさんが、きれいだねって喜んでくれれば、あげるつもりでした。
それに、なんならその後で、おいしそうだなあって言って食べちゃったとしても、
それはそれで何ら嫌ではなかったわけですよ。
なのに、奪い取るかたちで強引にいきなり喰われたことが、大変に悲しかったのです。
「ぼくの純粋な気持ちすら、こいつにはただの餌としか見えてないんだなあ」なんて
当時のぼくにはうまく言葉にできませんでしたが、たしかに思ったのを覚えています。



変なところでませていたぼくは、元々、あひるがタンポポとか食べてしまうということは
図鑑を見て知っていました。テレビアニメでライオンとキリンが仲良く手をつないでいたって、
でもほんとうはライオンはキリンを食べるっていうのも知っていました。
カクレンジャーはほんとは忍者じゃなくて役者さんだっていうのも、サンタさんが本当は
各県にたくさんいて、しかもソリじゃなくて自家用機でプレゼントを配っていることも
すべて知っていました。

でも、そういう、ライオンとキリンが仲良くするような、自然の摂理を越えた何か、
物語のような素敵なファンタジーめいたことが、それもまた一つの「現実」として
本当に存在することを、ぼくは心のどこかで信じていたというか、願っていたというか。
無意識のところであひるにもそれを求めていたのでしょう。
そこへタンポポが喰われたことが、突き付けられるかのように、思い知らされるかのように
ただただ現実らしすぎて、幼心にはとても耐えられませんでした。



素敵なファンタジーはすべてフィクションで、現実はもっと非情で無慈悲で、夜の女王だというのは
あの日知ったはずなのに、それでも未だにどこかでそれを求め続けているぼくは
今でもときどきタンポポを差しだしては、それをおいしそうに食べるあひるを見て
ちょっとせつなくなるのです。

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