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その博士は、常人離れした頭脳と天才的なひらめきを持ち併せていた。
専門とする分野以外にも、深く幅広い知識があり、
下手な専門家などかるく逸しているほどだった。

彼が現れてからというもの、あらゆる分野が飛躍的に成長を遂げ、
博士は人類の宝として、世界中、どこへ行っても丁重にもてなされた。
自分達もぜひ手伝ってほしいと、あちこちの研究施設から引っ張りだこであったが、

「私は幼少の頃より抱いていた疑問を、一つずつ解明しているだけなのです」

そう言って、博士は自分でやろうと決めている研究意外には、一切関わろうとしなかった。
もっとも、それであっても十二分に彼は人類に貢献していたし、この天才には、
多少の我がままは許されていた。



ある日、彼はいくつかの国に、ある研究のために多額の支援を申し出た。
なんの研究であるかたずねても一向に教えてはくれなかったし、その金額というのも、
一個人に対して簡単に出せるようなものでは到底無かったのだが、
博士に対する信頼はとても厚かったため、話し合いの末、それは支援されることになった。

博士はお金を受け取ったことを確認すると、今度は、世界でも最先端の研究施設を
複数要求してきた。既に大金を支払ったばかりの各国の上層部は少し渋ったが、
「この研究は、それらの施設がなければ到底なしえないと考えているのです」
という博士の言葉により、これも無事準備され、博士の下にわたった。

博士は満足げに確認すると、別の国々へわたり、世界各国で同じ要求を繰り返し続けた。
その結果、世界中でありとあらゆる最新設備をそなえた施設が乱立する結果となった。

その後も博士は数十年にわたり、たびたび方々で資金援助を要求したが、
彼がそれによる研究の結果を発表することはなかった。
今までならばどんなに難しいとされていた事案でも、ものの数ヶ月で革新的な成果を
あげていた彼だっただけに、世界の人々は、口々に、
「いったいどれほどに難しい研究をしているんだろう」と話し合った。
この間にも、新しい病気が発生したり、人々はさまざまに苦しめられた。
博士がいればこれらの治療薬も簡単にできただろうに、と嘆く者もいたが、
それ以上に、みんな博士が何十年もかけて研究している事柄に期待していた。



博士がこの研究をはじめて、五十余年がたった。この頃になると彼は資金を要求する
こともなくなっていたが、やはり研究の結果は分からないままであった。
彼が作らせた数々の研究施設は、そのほとんどが一度も使われることのないままに
老朽化してしまっていた。人々は、さすがにこれは何かがおかしい、と噂をした。
博士は悪者に捕まっていて、その悪者が博士になりすまして金銭の要求をしていた
のかもしれない、などと言い出す者さえいた。事実、博士の行方を知っている者は
誰もいなかった。

博士の捜索がはじまり、まずは幾多の研究施設内の調査が始まった。
いくつ目かの施設内で、粉々に破かれた紙幣や、打ち砕かれた美術品、
調度品の山に埋もれて、博士が死んでいるのが発見された。
衰弱しきり、こけた頬、やせ細った体に、あの天才の面影は微塵も感じられない。

調査隊は偉大な科学者の死を嘆き悲しんだが、自分達の仕事を途中でやめるわけにも
いかない。
博士が主に過ごしていたと思われるその施設の、ほかの部屋を調べていると、
数十冊にわたる「研究レポート」と題された分厚いファイルを見つけた。

そこには、無駄にしたお金や施設の数のデータにはじまり、
自分がいかに優れた人間であるか、もし自分が本気で社会貢献を続けていれば
いったいどれほど人類の文明は進歩したか、どれほど多くの人が救われたか、
ということが延々と述べられていた。そのあとは、しかし自分はそれらを一切せず、
この五十年あまり、いかに愚かな遊びに興じていたか、無駄な時間をすごしていたか、
それがいったいどれほど勿体無いことであるか……このまま自分が死ぬことは
人類にとってどれほど大変な損失であるか……というようなことが記されていた。
そして、最後のファイル、最後のページ。



「……以上の実験の結果によれば、
 「もったいないオバケ」は存在しない。
Q.E.D. 」

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