近未来風の建物の中で、炊飯器みたいなベンチに座って
赤黒い、ヌルヌルの液体に塗れたいびつな肉の塊を
こねまわしている人がいました。
なんですかそれは、とたずねてみますと
「ん、これはね、赤ちゃん」
と、その人は肉塊から目を離さずに答えました。
なんの赤ちゃんですか、いかですか?とふたたびたずねると
「違う違う。これはね、たこの赤ちゃん」
だそうで。そんなことを言いながらその人、
肉塊にナイフで切れ目を入れて、そこから裏返しました。
すると中から、触手のような足がだらんと垂れ下がり、
見た目もたこになりました。その人、機械的に左手を
ベンチにぶら下がったコンビニ袋に突っ込んだかと思うと
そこから目玉を2個取り出して、そのたこの赤ちゃんの
眼窩にはめ込みました。
ああ、たこって、組み立て式の生き物なんだ!と
素直に納得し、海に流されたたこの赤ちゃんを眺めながら
おおっとつぶやくと、その人、気をよくしたのか、
たこについて詳しく教えてくれました。
「木星ってしってる? 宇宙にあるやつ。」
しってますよ あれですよね ジュピターですよね
「そうそう。その木星の衛星軌道上に、
たこステーションというのがあってね。
そこで、たこはこうやって作られて、地球に送られてるの」
へええ
「でも、時々これみたいに、組み立てられてないたこが
送られてくることもあってね。ここは、そんなたこを
集めて、組み立てて、海に流すための建物なの」
たこステーション地球支部、みたいな感じですか
「うん。たことかが普通の生物だと思ってるひとは多いけど、
実はこうやって作られてるものも多いんだよ。
たこのほかにも、かにとか」
かにステーションもあるんですか?
「ううん、かにが作られてるのは、木星のエウロパっていう衛星。
ほら、かにの赤ちゃんのことをメガロパというでしょ」
そういえば、韻をふんでいますね
あ、じゃあ、いかもですか?
「違う違う。いかは、数少ない、地球の原生生物。
ほら、いかの赤ちゃんはこれ。」
うわ、可愛いんですね。
「でしょ。こっちに、大人のいかもあるけど、見る?」
いつの間にか建物内を案内してもらっていたぼくは、
かめといか室 と書かれた部屋に連れて行かれました。
そこには水槽がひとつあって、中にかめといかが入っていました。
そして、それを監視している役員さんが1人。
役員さん、ぼくたちが部屋に入るなり慌てて言います。
「ワカサギさん、大変です!かめが、いかを!!」
たこについて教えてくれた、ワカサギと呼ばれた人と一緒に
水槽を覗き込むと、かめが、走って逃げるいかを
追い掛け回して叩きまくっていました。
どっちかを水槽から出すのかと思ったら
「すごいすごい、スマブラみたい」なんてはしゃいで
「かめ、行け、かめチョップ!かめチョップ!」とか
叫んでいるワカサギさんを、やや呆れながら見てるあたりで
突然目が覚めました。
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