道すがら、あるはずのない不思議なトンネルを抜けると、
そこは、棄てられたおもちゃたちが楽しく暮らすファンタジーワールド。
野山をかけるぬいぐるみ、割れた紅茶のカップを交わす人形の貴婦人たち、
街角でうたう独楽や太鼓と、耳を傾け手拍子をするスーパーボール。
そんな世界を偶然みつけてしまったぼくと友達は、あいさつもそこそこに一緒に楽しく遊び、
あっという間に彼らみんなと仲良しになりました。
だから、帰り際、彼らにある頼みごとをされたのも不自然ではなかったのです。
いまのここでの暮らしは楽しくて、みんなとても幸せに生きているし
自分たちは役割を終えたおもちゃだから、また子供たちに遊んでもらいたいなんて
高望みはしていない。
けれど、聞けば今度人間の世界では、古いおもちゃや昔の道具をあつめての、
展覧会のようなものをするらしいではないか。どうしても、それに出てみたいんだ。
……なんて。とても必死にお願いされたし、あんまりかわいいので、つい
二つ返事で、いいよって言っちゃったのですでした。
展覧会がどこでやるかも知らないのにです。なんだろうこのぼくは。
探してみると、どうもおもちゃたちが言っていたのは、近所の小学校で近々やる
フリーマーケットのことのようでした。
展覧会ではなかったよと教えてあげたのですが、それでもいいから、また一度
人目に触れてみたい、とのこと。
ちょうど、おもちゃの街の郊外にうち棄てられていた、昔の新幹線の車体。
童心をわすれないピュアな心があればこれを動かすことができるそうなので、
おもちゃたちはこれに乗って、人間界を目指すことになりました。
当日。
わくわくしながら新幹線に乗り込み、リーダーおもちゃのもと、みんなで楽しく座席をきめて
心ときめかせながらおしゃべりが尽きない、満面の笑顔のおもちゃたち。
車掌の格好をした友人が窓から身を乗り出して、指をピッと前へさすと、
まるで機関車のように煙をあげて、新幹線は空たかく、ゆっくりと走り始めました。
小学校までは、人間であるぼくたちにとってはほんの少しの距離ですが、
きっと、この世のどんな旅よりも、すてきな旅路になったに違いないでしょう。
一方、頭の固い教頭先生を、ひとり必死に説得するぼく。とちゅうから、
偶然通りかかった教育委員会も加わっての人格否定まがいの罵詈雑言に耐え抜いて、
なんとか新幹線一両分のスペースを、校舎の前に確保してもらえることになりました。
新幹線が空の上から、汽笛を鳴らしてゆっくり下りてきます。
オーライオーライと手を振って、少しずつ後ろにさがるぼく。
窓から見える彼らのうれしそうな顔に、こちらまで心がはずみます。
オーライ、オーライ、
オーライ、
オー……
……!?
段差につまずき、古くなったフェンスを突き破って坂の下に転落、
あまつさえ、そのまま勢いあまって用水路に落ちるぼく。
この用水路はそこそこ深く、ぬかるんでいて、出ようにも、足を取られてなかなか上手く
体を動かすことができません。動けば動くほど沈み込んでしまうのです。
結局、壁伝いに浅いところまで移動してからなんとか道路に出られたのは
もうすっかり日も落ちたころでした。
せっかくの楽しい日にみんなを心配させてしまった、とあわてて校舎前へ走る
とちゅうの道。
楽しそうな友人とおもちゃたちを乗せた新幹線が、空を飛んで帰っていくのを見ました。
彼らの顔は一遍の曇りもなく、ほんとうに満足そうで、幸せいっぱいといった具合。
なにか心配事があったようには、とてもじゃないが見えませんでした。
なんだ、それなら良かった とつぶやいて、
暗い夜空を飛ぶ、新幹線の窓の光をいつまでもながめながら、
ひとり泥だらけの体で家路につく途中で
目がさめました。
まくらが濡れていました。つらい。
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