ぼくの腕にとまる中くらいの赤い鳥
執拗に甘噛みしてくるかわいい赤い鳥
なんでも願いをかなえてくれるらしいけれど、
願いひとつにつき、指1本を差し出さなければいけないという。
鳥曰く。
指はぜんぶで20本。足の指はだめだというから、
願いに使える指はぜんぶで10本。
まあ、10本とも差し出す気なんて毛頭なかったけれど。
鳥は腕から離れようとせず、そのまま一晩眠る。
次の朝、左手の薬指 行方不明の巻。
血だらけのくちばしで、満足げな鳥。
まだ何も願ってないのに、って怒ったらば、
赤い鳥の「維持費」だという。
なるほど 頭の先から尻尾まで鳥が真っ赤なのは
代々の鳥の持ち主の指を食べつくしたせいらしい。
ぼくはお前なんかいらない。そう言ってみる。
鳥動かず。指がぜんぶなくなるまで、
ぼくから離れるつもりは無いそうだ。
引き離そうとする。カギヅメが腕に食い込む。諦めた。
どうやらこいつ ある種の「憑き物」らしい。
なんてこった。
「ユキダルマのミイラ」というものがあるそうだ。
どこかのアトリエに、石膏像といっしょに並んでいるそうだ。
ユキダルマのミイラは、名前のとおり 生きたユキダルマの
心臓を抜いて、包帯を巻いて、乾燥させて ミイラにしたものらしい。
中のユキダルマは溶けてなくなるので、結果、ユキダルマの形の
包帯だけがのこったものらしい。
溶けたユキダルマが包帯に染み込んでいるので、
綺麗な、あせた銀色をしているらしい。清浄らしい。
で それがあれば、赤い鳥を祓えるかもしれないとのこと。
物知りな、パステルカラーの友達がコッソリ教えてくれた。
腕のたくさん生えた上着を持っている彼。
「Muggyが祓ったら、ボクがもらおうかな その鳥」
なんて笑う。やめておいたほうがいいよ
アトリエめぐり開始。
鳥に願えば簡単に、ミイラは手に入るけれど
それだとどうしても指をもう1本使わないといけないから
自分で探す。
暇つぶしに指をつまみ食いしようとする退屈な赤い鳥を止めつつ
同じような顔の石膏像を見て回る。
3つめのアトリエで、メドゥーサと鉢合わせ。
髪の毛はヘビじゃなかったし、目を見ても石にはならなかったけど
第一印象メドゥーサな女性と鉢合わせ。
実際、名前を尋ねたらメドゥーサだそうだ。
その肩で、黒い鳥が欠伸をしていた。
4つめのアトリエを出る頃、あの人も探し物は同じだと気づいた。
世界にひとつのユキダルマのミイラ。先に見つけなければ。
赤い鳥は、電線に止まる鳥を待ち伏せしては 丸呑みしていた。
その後もたびたびメドゥーサに会う。
向こうもぼくがライバルだと気づいているらしく、
会釈をしつつもグロテスクな刃物をチラつかせていた。
10箇所め ぐらいのアトリエで、銀色の塊を発見。
ついに見つけたユキダルマのミイラ。伸びるぼくの手。
赤い鳥が喚く。もう遅い。
銀色の包帯が、赤い鳥をぐるぐる巻きにして、
大きな口を開けて飲み込んでしまった。
やった、ぼくは解放されたのだ。
包帯の塊が、ぼくに噛み付く。
なんでも願いをかなえてくれるけれど、
願いひとつにつき、腕1本を差し出さなければいけないという。
なんてこった 維持費はいらないらしいけど……
後ろから襲い掛かってきたメドゥーサから身を守りたい
咄嗟にそう願ってしまった
ちょっと待て ほんとになんてこった
そこで目が覚めた。
ほっと胸を撫で下ろすぼくの左手に、
薬指が見当たらない。
微笑む赤い鳥。
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