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今日は朝から雨が降ってたんですが、小雨だったので、まあいいかと思って
傘は持たずに家を出ました。で、帰り道もそんなに降っていなかったので、
そのまま、濡れながら歩いてたのですが。

家まであと半分までぐらい来たあたりで、急に雨足が強くなって、
どしゃ降りになってしまいまして、これは大変だと慌てて近くにあった廃屋の軒下に
雨宿りをしに入りました。で、またすぐ引くだろうと思ったので
最初はそこで携帯のテトリスで遊んでいたのですが、Level6ぐらいまで
来た辺りで、廃屋の奥からなんか音がすることに気がついたのです。
よく聞くと、途切れ途切れに人の声のようなものもするような。

ここは誰も住んでないよな、と不審に思って中をのぞいてみると、地下に続く
階段のようなものがありまして、音と声はその奥からしているようでした。
雨もまだ思い切り降っているし、ぼくは下へ降りてみることにしました。

階段は思ったより長く、あっという間に外の光が届かなくなりましたが、
奥へ進んでいくと、外で聞こえていた、バリバリという音と声が、
前よりはっきりと聞こえてきました。

「た……て………けて………たすけ…て……!」

そんな風に、確かに聞こえました。ぼくは階段を降りる足をはやめて、
やがて、鉄の扉の前にたどり着きました。助けを呼ぶ声は、その奥から
発せられているようで、はっきりと聞こえてきました。


「たすけて!誰か、たすけてっ……!!
 そんなことしたら、わたし………!」

「ウヘヘ、叫んでも無駄だ、こんなところ、誰も来やしねぇよ!!」

「これでもまだ自我を保っているとは……。
 じゃあ、もっとキツいのならどうなるかな?ひひひ……」

「いやあああああああああ!」



「そこまでだ!!」

勢いよく扉を蹴飛ばし、叫ぶぼく。
扉の向こうには、やや薄暗い、開けた部屋があった。
部屋の中央には、ガタイの良い強面の男と痩せた科学者風の男が、
たくさんのコードが延びた小さな机を囲むように立っていた。
机の上にはなにやら充電器のような装置があり、その中には……

「Muggy!!!たすけて!!!」

見間違うはずもない!装置には、いつか夜の街を自転車で一緒に抜け出した、
あのアルカリ電池が捕らえられていた。彼女は体に過剰な電圧をかけられて
いるようで、小さな単四の体は膨張し、いつ破裂してもおかしくない状態だった。

「貴様ら!今すぐその装置を止めろ!
 アルカリ電池を充電してどうなるか、分かっているのか!!」

ぼくの声が部屋の中にこだまする。中にいた男たちは、扉を蹴破られた時こそ
吃驚していたが、現れたのが何の力ももたないただの学生だと分かると、
今はもう体制を立て直していた。体格の良い男を静止し、
痩せた男が答えた。

「ああ、知っているとも!確かにメーカーは、液漏れや爆発の可能性があるとして
 アルカリ電池の充電は危険であると謳っている!!
 しかしね、キミ!キミは若いからまだ知らないのだろうが、アルカリ電池の充電は、
 危険を伴いこそするが、“不可能ではない”のだッッ!!」

「なんだとッ……、しかし、なぜそんなことをするんだ!
 充電して何度も電池を使いたいなら、専用の充電池があるだろう!!」

「ひひひ……別に私は、この電池を再利用したいから充電しているのでは
 ないのだよ……!私は今、単四アルカリのこの電池を、私が開発した
 “幸福充電器”にかけているのだ!この充電器は、電荷と同時に、幸福感を
 充電することができる!これが完成すれば、人間は皆幸福につつまれるだろう!
 この電池は、崇高なる計画の実験動物に選ばれたのだ!!
 見ろ、この単四電池は、幸福そうだとは思わんかね!?」

アルカリ単四電池は悲鳴をあげてのたうちまわっていた。

「この単四電池ちゃんも、幸せを、一足お先に手に入れた
 電池なのだ!ひひひ!」

ダメだ、こいつは……、所謂マッド・サイエンティストというやつだろうか。
まともに話の通じる相手じゃなさそうだ……!
そう判断したぼくは、いち早く電池を救うべく、キャンバスバッグから
ビームライフルを取り出す。こちらに話し合いの意思が無くなったことを
察したのか、白衣のサイエンティストは一歩後ろへ下がり、男が前に出た。

ぼくはビームライフルを構え、照準を男の足あたりにあわせる。
いくら悪人とはいえ、殺してしまってはまずいと思ったのだ。
男はこちらに向かって、襲い掛かるでもなくゆっくりと歩いてきていた。
狙いを定めて、引き金に指をかける…………

次の瞬間、サイバーレーザーを発射するよりも早く、
男に殴り飛ばされ、ぼくは壁に強く頭を打ち付けた。
漫画の噛ませ犬にしか見えない容姿のせいで油断をしていたが、
男は予想以上に俊敏だったようだ。

頭をぶつけた衝撃でビームライフルはぼくの手から離れ、放物線を描いて
ぼくを殴った男の手に収まった。

衝撃で割れたゴーグルをはずして、ぼくはよろよろと立ち上がった。
ビームライフルを手にした男が、ニヤニヤと笑いながら銃口をこちらに向ける。
このままでは非常にまずいことは明らかだった。
まだ意識が朦朧としていたが、このまま同じ場所にとどまっていては、
狙い撃ちされるのも時間の問題だろう。

「もうあきらめるんだな!お前はここで死ぬのさ!」

男が叫んだ。ぼくは咄嗟に横に飛びのき、眩い光の束はぼくの体を掠めた。
腰につけていたやかんが幾つか、弾けとんだ。

上がる心拍数。ぼくは発射され続けるレーザーから逃げ続けた。
動きを止めないようにしながら、単四電池を助け出せる瞬間を見計らっていた。
しかし、撃ち殺されこそしなかったものの、そのタイミングは訪れなかった。

やがて、レーザーが止んだ。SPが切れたのだろう。
サイバーレーザーは、SPが無くなれば撃てなくなるのだ。
男は悪態をついてビームライフルを投げ捨てると、こちらを見、殴りかかってきた。

かわそうとしたが、体力を消耗しきっていたぼくは、再び殴られ、吹っ飛ばされた。
さっきとは違い、壁にぶつかる前にうまく着地することができたので、
ぼくは体勢を立て直すことを試みた。しかし、次の瞬間、

「マギイィィィィ!!いやあぁぁぁぁぁ!」

単四電池の絶叫。何事かと思えば、
ぼくの左腕から先がボトリと床に落ちていたのだった。

いつの間にか姿をくらましていた白衣の男が、ぼくの後ろから現れる。
その手には、ぼくのキャンバスバッグと、スーパーソードが握られていた。

「ひひひ、キミは、面白いモノを色々と持っているね?
 まあ、自分がその武器で死ぬことになるとは思ってなかっただろうが……!」

「ウヘヘ、実際、お前はよく頑張ったほうだと思うよ?
 まあ、それもここで終わりにしてやるんだけどな!!」

男たちは、床にひざをついたぼくを囲み、口々に言った。

「Muggy、もういいの、わたしのことは置いて逃げて!!」

「終わりだ!!」

スーパーソードが再びぼくに振り下ろされた。

最早逃げることはかなわなかった。ぼくは、さっき腕を失った左肩で、
再び剣を受けた。歯車やネジが、肩からバラバラとこぼれ落ちた。

「なっ!?こいつ、まさか……!」

「そう、そのまさかさ!くらいなっ!!
 おらああああ!!!」

薄暗かった部屋は、真っ白な光に包まれた。

「うがああああああああああ!!!」

まぶしさに耐えきれなくなったのだろう、前方で、男の倒れる大きな音がする。

「ライトニングバトルだと……!!?
 くそう、さてはお前ライトニングカンパニーか!!」

「“シャイン”と呼んでもらおうか!」

ぼくの肩に仕込まれたライトは、最早何も目視できないほどに、
激しい光を放っていた。

「ぼくがさっき、ただ闇雲に逃げてばかりいたとでも思ったのか?
 ぼくが逃げ回っていたのは、レーザーから逃げるためだけでも、
 歩数を貯めていただけでもない!!」

 ポケットのポケウォーカーで、ニドキングのドラクロワがうなる。

「ぼくは、部屋を飛び回りながら心拍数を上げ心臓のダイナモを回し、
 体内に内臓されたバッテリーに電気を貯めていたのさ!!
 そう、このときのために!!」

「ぐっ……!」

「腕についていたレンズが無くなって、光の強さは普通の半分も無いが……
 この程度でも、こんな薄暗い部屋に長時間いたお前たちにの目には
 強すぎるほどだな!」

「うう、これまでなのか……!私の計画が……!」


一気に形成が逆転し、戦いはぼくの勝利かに思われたが……、
ぼくにも一つだけ、誤算があった。

殴られて壁に頭をぶつけた際に、つけていた遮光ゴーグルが壊れてしまっていたのだ。
腕の眩い光は、ぼくからも、視界も奪っていた。

本来のライトニングバトルならば、ここで相手の心臓を一突きするのだが、
こちらも何も見えなくては狙いを定めることができないし、
そもそも、その為に持っていたスーパーソードは、奪われてしまっていた。

このまま何もしなければ、こちらも目が見えていないことを悟られてしまう。
さらに、もともと、発せられている光の量は大したことがないのだ、
時間が経てばじきに、お互いに光に目が慣れてしまうだろう。
気を失っている男も、目を覚ましてしまうかもしれない。
しかし、何よりも優先すべきは………。


「アルカリ!!」

「マ……Muggy……どうなったの、何も見えない……!」

「ぼくの声が聞こえるか、今助けに行く!
 だからキミは、ぼくに場所が分かるよう……声を出していてくれ!」

「わ……わかった、やってみる……!」

アルカリ単四電池の、絞り出すような声を頼りに、ぼくはゆっくりと歩いた。
少しずつ、確実に声の元へと近づいていく。
走り出したかったが、下手に装置やアルカリに刺激を与えてしまっては危ない。


ぼくはふいに、転倒した。気絶していたかにみえた男が、倒れたままで
ぼくの左足をしっかりとつかんでいた。

「う……さ……させるかあ!行かせねぇ!!」

ダイナモの回転は、ぼくの頭から、常識的な思考力を奪い去っていた。
目が見えなくても、“的”のほうが位置を教えてくれているのだ。
何も問題はない。

「喰らいな、カースド・サイバー・レフトフットォォ!!!!
 ヘル・ファイ・ア!!」

「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

ぼくが地獄の炎に包まれた左足を回すように力強く振ると、
男は鋭い悲鳴をあげ、部屋の片隅へと吹き飛んだ。

「Muggy、こっちよ……はやく……!」

ぼくはようやく声の元、単四電池のいる場所へとたどり着いた。
ライトを消して単四電池のとらわれている装置を確認すると、コンセントを抜き、
装置のコアを叩き潰すと、ぼくは単四電池を、ゆっくりと装置から救い出した。
単四電池はガスでボコボコに膨張して、酷く駅漏れしていた。
可愛らしい顔の面影はもうなかったが、
今ぼくの手のひらの上にいるその子は間違いなく、あのアルカリ単四電池だった。

「Muggy、わたし……わたし……」

「もう大丈夫だ、よく頑張ったね……」

アルカリの体から漏れ出す強アルカリの電解液で手が爛れるのもかまわず、
ぼくはアルカリ単四電池を抱きしめた。

「ほら、安静にして、急いで病院にいこう」

ぼくは羽織っていた毛布を脱いで、それに単四電池をくるんであげると、
ネコミミを外し、被っていた黄緑のシルクハットを脱いで電池をその中に入れてあげた。


「おのれ………!よくも………!私の研究を………………!!!」


白衣の男が、こちらを見据え、スーパーソードを握り締めて立ち上がった。



白衣の男は恐ろしい形相で、我を忘れて襲い掛かってきた。
ぼくはそれを、電池のシルクハットを小脇に抱えて迎える。

「死ね!死ね!死ね!!」

白衣の男が、スーパーソードを、ぼくめがけて滅茶苦茶に振り回す。

「全てお前のせいだ!お前のせいで、私の研究は……幸せの研究は……!!」

「そんなものを幸せとはいわないぜ!!」

白衣の男の振り下ろすスーパーソードをかわし、ぼくは机の前から飛びのいた。
男は追ってくるかと思ったが、そうではなかった。
突然しゃがみこむと、机の下から、小さな包みを取り出したのだ。

「ぜんぶ……ぜんぶお前のせいだ!だから、これで…………!!!」

白衣の男が包みをはがすと、中から銀色のテープのようなものが
勢いよく飛び出し、男の腕に噛みついた。

「ヒ……ヒヒヒ……!これが何か分かるか?ユキダルマのミイラさ!
 腕一本と引き換えに、何でも願いを叶えてくれるのさ……!!
 ヒ……ヒヒ、お前、お前が悪いんだ!全て!!
 ユキダルマのミイラよ、あいつを、殺せ、殺すんだ!!!」


「……厄介な……よし、手短にこなすぞ……」

ぼくは単四に小さくつぶやくと、白衣の男のほうを向き、叫んだ。



「レッツ・ビギン!!」



ユキダルマのミイラと呼ばれたそれは、ニヤリと笑うと、
白衣の男の片腕を噛み砕き、スーパーソードごと丸々飲み込んでしまった。

「うぐッ……! 死ね!!!」

ユキダルマのミイラは禍々しい竜へと姿を変え、まっすぐ飛びかかってきた。
竜の羽ばたきですさまじい旋風が巻き起こり、部屋に散乱したメモが飛び散り、
ぼくの首に巻かれたネギを吹き飛ばした。
竜はあっという間にぼくの目の前に現れ、ぼくにその爪を振り下ろす。
ぼくはその攻撃をギリギリまで引き付けると、叫んだ。

「数多の星よ、科学の化身の力を以って今ここに形を成せ!!
 ね……ネオインプレッショニズム!!!!」

刹那、ぼくのその言葉は無数の粒となり、粒は盾の形を成し、
ミイラの竜の攻撃を防いだ。
竜は苦痛の叫び声をあげ、床を転げ回り、やがて、雲散霧消した。

「な……なにが起きた…………?……ハッ!
 “スーパーしりとり”か!!?」

「“レッツ・ビギン”は、今秋から制定された
 公式スーパーしりとり開始合図だ、忘れたか……!!」

ぼくはシルクハットを抱え、退路を確保するように移動しながら、
それを気付かれないように挑発気味に言った。


「ぐぅ、こいつ、しりとらーだったとは……!!」

「さあ、ぼくはレベル12の“ネオインプレッショニズム”で、
 お前のレベル2“死ね”を防いだ……次はお前の番だ!!」

「む……む………うう、くそう……」

「おっと、言い忘れてたが……束縛決闘フィールドを展開させてもらった
 はやく単四を病院に連れて行きたいし、時間がないからな!あと3秒だ!」

「なっ……なんだと、お前、DS(ダークソーサラー)だったのかッッ!?」

「違うね、その逆だ!ぼくは正義のスーパーしりとりソーサラー、SSSSだ!
 ほら、もう時間切れだ、死ね!タイムオーバーキル!!」

「ぎゃあああああああ!!!!」

無数の黒い粒は盾の形を解き、巨大なプラグへと姿を変え、
この事件の元凶である、白衣の男へと放電した。
レベル12の呪文をダイレクトに受けた白衣の男は、黒い煙をあげて
その場に倒れこんだ。

「さあ、逃げるぞ!」

ぼくは階段へと向かう。しかし、3歩もいかないうちに、倒れた柱に
行く手を阻まれてしまった。
レベル12呪文は、白衣の男以外にも、部屋にあった様々な機器の類いにも
放電してしまい、ショートした機器があちこちで爆発を起こして部屋を破壊して
いたのだ。

「大変だ、崩れるぞ!」

ぼくは柱を乗り越え、階段に向かった。ローラースケートを履いているせいで、
うまく階段を昇ることができない。途中何度も、お尻のしっぽアクセサリーが
ガレキにはさまって動けなくなったが、その度にガレキをどけ、
かなり長い時間を要してようやく、廃屋の外までたどり着いた。

外は、もう夜になっていた。いつか見たのと似た裸電球の月が浮かんでいる。
大変な非常事態であるのにも関わらず、ぼくはなぜか、いつか2人で
海へでかけたときに似ているな、なんて考えていた。

「さあ、急ぐぞ!アルカリ、大丈夫か?」

「う……ん、もう、ダメ……かも……。」

「バカなことを言うな、絶対助けてやる!!」

「わたし……ね、あの日の夜……すごく、後悔……したの……。
 充電池に生まれたかった……って、メーカーさんをうらんだこともあった……。  でも、いまは、こうしてまたMuggyの傍にいられて……本当に……」

「もうしゃべるな!!」

時折、シルクハットの中で単四が苦しそうにうめく。
ぼくは泣きそうなのを堪えて、殆ど泣きながら、最寄の病院まで走った。




ダイナモライトが照らし出す、砂鉄の砂浜。
電解液の海に浮かぶ裸電球の月を眺めながら、ぼくは手術室前の椅子にすわり
ただひたすら、単四の無事を祈った。

「急いで治療しないと危ない状態なのは間違いないが、
 今から電池に詳しい電気屋の息子を呼ぶから、すぐに治療を施すことはできん」

そう医師に言われていたこともあり、ぼくは不安で仕方がなかった。
夜中の1時46分。ぼくは医師に揺り起こされた。
どうやら、ぼくはいつの間にか眠ってしまっていたらしかった。

「アルカリ単四さんの手術は、終わりましたよ……。
 結論から言ってしまいますと……、電解液がほとんど漏れて失われていたほか、
 外装もボロボロで、元通りにすることは、不可能でした、が……」

頭の中が真っ白になった。あの子が?まさか。

ぼくは、単四がいるという病室を聞き、急いでそこへ向かった。
部屋番号を横目で確認し、勢いよくドアを蹴破った。

風圧で棚のびよんびよんが落ちるのも気にせず、ベッドに駆け寄る。
しかし、やはりというべきか、そこに、見知ったアルカリ電池の姿は無かった。





そこにいたのは、包装も新たになった単四のニッケル水素充電池だった。

「Muggy、おはよう。」

「これは……」


さっきの医師が部屋に入ってきたので、説明を求める。
医師は、ゆっくりと、複雑そうな顔で語りだした。

「アルカリ単四電池さんの、アルカリ単四たる性質は、運び込まれた時点ですでに、 ほとんどすべてと言っていいほど失われてしまっていました。」

「しかしまあ、なんと言いますか……。アルカリさんの心だとか記憶だとか、
 そういったものは、アルカリさんの体内には元々存在しなかったのです。
 人間で言う、脳とか、そういう部位が……、電池には、ないんですよね」

「で、じゃあ、アルカリさんの意思とかそういうものは、
 どうして存在するのかというのを調べた結果……。どうやら、彼女は、
 “付喪神”のようなものだということが分かりまして……。」

「結果的に元のパーツはほとんど失われましたが、彼女の意識を、
 なんとか、1つの電池に宿し続けることに成功したようです」

医師の後ろで、電気屋の息子と、よく分からない服装の人がこちらに会釈していた。

「あー、医者の私は何もしていないので、これで……。
 もう何ともないので明日の朝には退院してくださいね。あと、
 病院のドアを蹴るのはやめてください」

不機嫌になりながら医師は部屋を出て行った。

「ねえ、アルカリ……いや、もうアルカリじゃないのか……ええと」

「いいよ、アルカリで」

「じゃあ、アルカリ」

窓の外、町の明かりが消えるころ、ぼくはふいに言った。

「改めて……きみの急速充電器になりたい!」


「充電は……。もう、しばらくしたくないんだけどなぁー」

「あっ、放電!放電機能付きのになろう」

「うふふ」



ぼくの決死の告白は、茶化されて流されてしまったけれど、
元気そうなニッケル水素のアルカリを見ていると、
なんかもう、そんなことは、どうでもよかった。


おわり
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