彼の瞳には、生きてるものは何も、何のひとつも映らない。
野ねずみ1匹、野コアラ1匹、映らない。
なんでコアラかはともかく、彼はそういったものを見たことがない。
そして、
彼の瞳には、生きている景色もまた、一切の一切映らない。
走る車も、電車も、地平線に沈む夕日も、夜の街の明りも、映らない。
彼は廃墟以外のなにかを、見たことがない。
彼は、枯れた花畑や、朽ちて落ちたビル街、罅割れた地平、
転がり、地面に折り重なる亡骸ばかりを
生れてから今まで、ずっと見続けてきた。
それがさみしいことだとは思っていなかった。というか、
それがさみしいことだと、彼は知らなかった。
生まれてから生きている何かに出会ったことがない彼は、
さみしいということも、知らなかった。
しかしべつに、彼は 滅びた世界に住んでいるわけではない。
彼が歩いているあいだにも、世界はいつもどおり進んでいる。
ただ、彼が「見た」ものが、一瞬で朽ち、崩れ、滅びてしまっているだけなのだ。
時折誰かに肩を叩かれ、振り返ると、そこには死体のみが。
そんなことが何度もあった。
世界は彼を危険視し、何度も抹殺を試みた。部隊をいくつも送った。
彼が空の彼方に、豆粒程度に飛行機をとらえるたび、部隊は壊滅した。
彼の目には滅びの力が宿っているだけでなく、視力もけっこう良かった。
彼が「見たもの」が滅びるのだということに気づいた世界は、
彼を後ろから暗殺しようと試みた。スナイパーを何人も送った。
彼はさみしさを感じなくとも、退屈だった。
物音がするたび、彼はすぐ振り返った。
耳もけっこう敏感だった。
世界は、彼について、人々に隠蔽し続けている。
そんなヤツがいると知れたら、大混乱が起こるからだ。
今日も彼は、その目でモーセのごとく海を割り、
干からびた魚介類の山を踏みならしながら、
物音のするほうへと歩き続けている。
[0回]
メドゥーサの強い版かんがえた!!
ていうかんじで、2行ぐらいで終わると思ったら
なんか長くなって同時に痛くなってかなしいです。
「滅び済み」の定義はなんなんだろう。
彼が見れば見るほど、景色はボロボロになるんでしょうか。
ていうか、なんの話なんだこれは。
「彼は太陽や月、星を見たことはないのですか」とかはナシです。
おそらのおほしさまは、ふしぎなパワーで守られているんです。
ちいさいころとなりのおにいちゃんが言ってた。
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